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​第4章 アルコール依存症の治療と回復

② 回復とは

「しっかり治して退院してきてね!」

そうやって、入院する本人を送り出すご家族がいます。

これはどうやら「しっかり治してね」=「もうお酒飲まなくてすむようになってね」とか、「もう飲みたくなくなるまでしっかり勉強してきてよ」とか、そんな意味合いが込められているようです。

残念ながら治療で飲酒欲求は消えることがありません。

教育プログラムで勉強はしていただきますが、だからといって飲みたくなくなるわけではないのです。

アルコール依存症は「完治はしないが回復はある」と言われる病気です。二度と、お酒を上手にコントロールして飲むことはできないけれど、断酒さえ継続できれば普通に生活することは可能です。

​入院したり、治療を受ければ一気に回復するのではなく、このように段階を追って回復していきます。

白いアジサイ

第1段階

外的条件により断酒する

「~だから飲めない」という段階です。

​治療を受けないと仕事を辞めさせられる、離婚になる、命に関わると言われた・・・など、外的な要因が動機になって治療につながります。本人としては「渋々」といった状況でもあり、まだ「家族が大げさなんだから」などと、否認が強く働いていることがあります。

第2段階

​内的条件により断酒する

「~だから飲みたくない」という段階です。治療が進む中で、飲酒をしない生活のメリットにも気づけるようになります。このまま飲まずにいたい、という内的な要因が動機になっていきます。このとき、飲んでいた時に得ていた、お酒のメリットも認め、そのメリットを酒以外のものに置き換えていくことや、飲みたい気持ちと飲みたくない気持ちの葛藤を自覚し、バランスを取っていくことが大切です。

第3段階

​飲酒を必要としない

​「~だから飲む必要がない」という段階です。これまでは依存症の背景にある問題のために飲む必要がありました。自助グループや治療につながった今では、感情を否認せず、正直になることができ、それを受け入れることができるので飲む必要がありません。

第4段階

回復を維持、発展させる

生活のあらゆる面で自分の属している自助グループの考え方を応用し、自分の経験を次の依存症者に伝えていくことができます。

一方で、回復を難しくしている要因もあります。

1 否認​

アルコール依存症に特徴的な心理で、自分が病気と認めない、問題が起きていることを認めない、など、現実に起きていることが認められません。否認については「第2章 アルコール依存症の心理 ③否認について」をお読みください。

2 健忘

酩酊によって意識障害を起こし、部分健忘、全健忘となり、覚えていないことが多いため、飲酒で起こったことの振り返りができません。

​3 前頭葉の機能障害

前頭葉の機能とは、判断力、現実検討、抽象的思考、理性(抑制)、意欲、注意、計画、推測などです。アルコールの影響で前頭葉が委縮し、機能が低下すると、次のような障害が起こります。これは認知症などの物忘れとは異なります。

・自分に対する認識や判断が甘くなる

・臨機応変に対応することができない

・思考の柔軟性を欠く(頑固、マイペース)

・判断力の低下(先の見通しがつかない)

・認知の歪み(悪い方に考える、自分の都合のいい方に考える)  など

それでは、回復していると、医師はどのように判断しているのでしょうか。

1 振り返りができている

治療前のことを振り返り、家族や周囲に迷惑をかけてきたことを自覚できているかどうかを確認します。

2 病気を理解している

自分がアルコール依存症であるということを受け入れ、知識として学んだ症状などを自分のこととして理解できているかどうかを確認します。

​3 具体的な対策が立てられている

自分の飲酒欲求がどういうときに出やすいのか、そのときにどのような対策が立てられているのかを確認します。「もう飲みません」「酒はやめました」だけでは対策が立てられているとは言えません。リスク管理がきちんとされているかどうかをみます。

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